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EMMA_SON TRIPPING

2016/09/28

UTMBへの挑戦<前編>

澱んだ空。去年見た景色はそこになく、ヨーロッパ最高峰がそびえるはずの方角に目をやりながら「今年の大会は荒れそうだな......」と思いふけっていたのがレース7日前。今年もフランス、シャモニーに降り立ちました。

昨年、初めての海外レースへのチャレンジとして出走したUTMBのカテゴリーのひとつ、『TDS』(119km / 7,250mD+)。登山や縦走を愛する山好きな私にとってヨーロッパアルプスの壮大な景色は、レースの過酷さを忘れるほどの感動モノでした。そして今年は『UTMB』(170km/10,000mD+)。

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ふたたびシャモニーへ。今年は念願のUTMBに挑む

夢はいよいよ現実へ

『えっと、じゃ、次は、UTMB・・・かな?』
とEMMA_SONの連載に書いてから1年。いよいよ初めての100マイルレースです。

これまでの私のロング・ウルトラトレイルの主な戦歴は、2013年『信越五岳トレイルランニングレース』(特別完走)、2014年『STY』、『上州武尊山田昇杯120km』、2015年『IZU TRAIL JOURNEY』、『奥三河パワートレイル』(45kmで関門アウト)、『TDS』、『信越五岳トレイルランニングレース』、『T.D.T100mile』、『奥三河パワートレイル』(ゴール制限時間アウト)といった感じです。

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2013年信越五岳より
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2014年STYより
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2015年TDSより

今でも、第一回開催だった上州武尊に無謀にチャレンジして関門に追われながら完走したこと、昨年のTDSを思っていたよりも余裕をもって完走できたことで、"きっと私はロングなんだ"という勝手な思い込みと根拠のない自信を持つようになってきてしまっていたように思います。しかし、今年に入って2回目の挑戦だった奥三河パワートレイルをまたも完走できず、さらには同じく2回目となる富士登山競走山頂コースもまた、関門時間内に五合目に到着できずDNF(Do Not Finished=途中棄権・未完走)に終わりました。(悪天候で五合目打ち切り、山頂権圏内には入ったものの関門時間外なのでDNFとなる)

今年に入って2つのレースを立て続けに完走できず、積み上げてきたはずの自信が揺らぎ始め、さらには4月末に腿の肉離れで1ヶ月近く休養したことでより一層不安要素が増えることとなりました。

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肉離れでこのわずかな段差さえも降
りることができない日々に泣いた

怪我からの復帰以降、オーバーワークにだけは十分に気を付けてメンテナンスしつつ、できるだけ標高を上げて山に足を運びました。ロードの練習はあまりできなかったけれど高度順応は十分すぎるほどで、最終調整は『トランスジャパンアルプスレース』北アルプスエリアの逆走が要となりました。

早めに現地入りした今年。当日までの過ごし方はこんな感じです。
<スタートまでのスケジュール>
1日目(晴れ):午後現地着。スーパーで滞在期間中の買い出しと街歩き。
2日目(曇り):Aiguille du Midi、Plan de l'AiguillからMonterversまでハイキング
3日目(晴れ):Matterhorn(マッターホルン/ 標高4,478m)の麓へ
4日目(晴れ):Salon Ultra Trailがオープン
5日目(晴れ):LE BREVANT標高2,525m~Chamonixまでジョグ、午後にレースのパッキング。
6日目(晴れ):TDSゴール、OCCゴール。UTMBの受付・装備チェック。
7日目(晴れ):スタートは18時。何度寝も繰り返してお昼12時頃に起床。17時にゲートへ。

宿は、昨年仲間と泊まった綺麗な設備で街の中心街に近いアパルトマンLes Balcon du Savoyを滞在拠点にしました。宿の前の広場では、子供達が参加できる"MINI"シリーズが開催されます。
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『MINIS_UTMB』開催、ちびっこたちのレースも
距離によって6つのカテゴリーで開催 

憧れのマッターホルンへ迫る

2日目にはシャモニーの一大観光地、エギーユ・ミディ(3,843m)へ。ゴンドラを2つ乗り継ぎ、トレイルを歩くことなくヨーロッパ最高峰モンブランの近くまで行くことができます。展望台といっても立派な建物で、建物の中の壁には数々の歴史的な登山家、有名な登山家の写真に混じってキリアン・ジョルネの写真と名前が刻まれていました。ゴンドラの中継点Plan de l'Aiguillから標高約2500m地点をトラバースできる長いトレイルを軽くジョグしながらLes signalという地点、そしてMonterversへ。さほどアップダウンがないので、捻挫などに気を付ければ、レース前に身体を動かすにはオススメの場所。ゆっくり歩いて4時間程度。レースに出る様子のランナーもたくさん走っています。そこから降りるとMer de Glace(メール・ド・グラス氷河)というこれまた観光地の氷河見学ができるエリアへ。氷河を見るにはかなりの段数の階段を登り下りしなければならないので、ここはスキップ。登山鉄道でシャモニーに戻りました。

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エギュー・ド・ミディ展望台。雲の下に見えるのがシャモニーの町

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エギュー・ド・ミディよりモンブランを臨む

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Monterversへトレッキング

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Mer de Glace(メール・ド・グラス氷河)

3日目は憧れのマッターホルンへ。シャモニーから友人が運転してくれたレンタカーで約2時間。マッターホルンの麓の街ツェルマットへ。ツェルマットはスイスだからか、観光地だからか、目が飛び出るくらいの物価の高さ。ゴンドラに6000円強払ってできるだけ近くへ。よくよく考えてみればものすごい規模の山に作られたゴンドラに乗るのだから、日本のゴンドラなどに比べてもその整備費を思えば安いのですが、せっかく来たのだからと思いきりました(笑)。でもその価値は十分すぎるくらいで、目の前には真っ白な3000m、4000m級の山々が360度広がり、その中でもやはりマッターホルンは異様とも言える存在感を放っていました。綺麗だとかそういう表現では足りない、荘厳で身震いするような凄まじい"気"を放っていました。いつか登ってみたい。あの場所へ。

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こちらはツェルマットの街。シャモニーとはまた趣が異なる

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マッターホルン、すぐそこです

その頃シャモニーの街では着々と準備が進められていて、まるでお祭りのよう。街全体が大会会場のようで、あらゆる場所で旗がなびき、過去の大会Tシャツやフィニッシャーベストを自慢し合うように身にまとったランナー達が日に日に増えて行きました。街を走る人も走らない人も、街中の人々が大会を楽しみにしていて、「あなたは何(のカテゴリー)を走るの?」と声を掛けられることもしばしば。そんな雰囲気がまた気持ちを盛り上げてくれて、興奮と緊張が入り混じってくるのです。
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日に日に大会当日が迫る中、心高鳴る

メインスポンサーがColumbiaになって2年目。昨年よりも大会オフィシャルTシャツやグッズが充実していて、シャモニーのColumbiaのショップにも限定品が数多く並んでいました。2年かけて準備されただけあって、ゲートも昨年より凝ったデザインのように見え、大会前に展示された参加賞Tシャツやフィニッシャーベストはおそらく過去最高に豪華なものになっていました。これは、必ず勝ち取るしかない。

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今年の参加 Tシャツとフィニッシャーズベストが展示。欲しい
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オリジナルグッズも目移りします


暑いも地獄、寒いも地獄

初日にモンブランすら見えずに澱んでいた空からは想像もつかない晴天に変わったのは、シャモニーについて4日目頃。それまで日中でも半袖短パンでは肌寒く、夕方に通り雨があるという日が続いていたのが一転。いよいよUTMB WEEKがスタートするSalon Ultra Trailの開始と共に一気に真夏へと様変わりしたのです。TDSスタートの前日、大会事務局からこんなメールが送られてきました。

"Greetings,
The temperatures are going to rise sharply this week.
The nights will say cool, but it will be hot between 11:00 and 18:00.
The high point of the temperatures will be constant from Tuesday to Sunday, with temperatures which could climb to 32° C at 1000m. There will only be a very light breeze.
We ask that you have a reserve of a minimum of 2 litres of water with you.
We highly recommend the use of a hat or cap which covers the back of your neck.
Use water from the rivers ans streams to cool you head and body.
There are numerous drinking fountains along the route: do not hesitate to drink or fill your reserves. (Potable on a fountain means that it is drinkable, non-potable = undrinkable).
Wear sun screen.
Wear sun-glasses.
We hope that you have good race,

The UTMB® organisation committee"

標高1,000mで32度だというのです。少なくとも2Lの水を持つように、と。今年は寒いから防寒をどうしようかなどと、つい昨日一昨日まで話していたけれど状況が一転。昨年同様に暑さ対策が課題となりました。TDSはスタートが早朝。初めから日陰がほとんどないままに昼を迎え、51km地点で街に下りた後、一気に標高1500m以上を最大6時間かけて登ります。暑さの厳しかった昨年もまたこのセクションで大量に熱中症になる選手が出て、草むらに倒れる人や吐き戻す人の中を歩いたことを覚えています。これまでいずれかのカテゴリーを経験している仲間に聞くと「いままでで一番暑かった」と言い、フィニッシュゲートには「ヤバイ」「暑い」「キツイ」と口々に訴えながらボロボロになって飛び込んでくるような状態でした。

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一足先に開催されたTDSから帰還する選手たち。
みな「暑い暑い」と口をそろえる

4日目に最後のジョグにとひとりで行ったLE BREVANT標高2,525mからChamonixまでのわずか2時間30分程度でも、持っていた1Lの水をみるみる飲み干しカラカラに。初日に感じた「今年は荒れる......」という嫌な予感が全く違う方向に振りきれて再び私に襲ってきました。

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シャモニーの周辺で最終調整。汗が噴き出す

不安は暑さだけではありませんでした。
前日になってもギリギリまで天気予報を何度も確認しました。何度リロードしても、リロードしても、そこには「降水確率80% 雷雨」という文字。2010年は悪天候によるコース上の崖崩れによりわずか30kmで中止、2011年には雷雨で5時間遅れてのスタートとコース変更、悪天候の中での過酷なレースとなり(完走率47.83%)、2012年もまたしてもスタート時間とコース変更で(100kmに変更、完走率85.6%)など、3年連続で悪天候での伝説を生み出しているUTMB。一方で2015年は猛暑でUTMBに挑んだ数多くの日本人エリートランナーが途中棄権となり涙を飲みました。標高は最も高い部分で2500m以上。日本のように樹林帯など少なく、だだっぴろい稜線にさらされるヨーロッパアルプスが舞台。暑いも地獄、寒いも地獄。海外サイトの妙にリアルな雷とスコールのイラストは結局当日まで消えることがなく、なんとか調べ尽くした他のサイトでの降水確率60%という予報を多少の気休めにして、腹を括るしかないと自分に言い聞かせました。

前日の受付と装備チェックでは、せっかく炎天下で並んだのにIDを部屋に忘れて大慌て。パスポートなどのIDがないと会場にすら入れません。仕切り直して、装備チェックへ。

UTMBの装備チェックは大きな体育館で行われ、必携装備の中からランダムに4つ記された紙をその場で渡され、チェックの付いたものだけを確認されるという仕組みです。1人1人、何がチェックされるかその時までわからない仕組みです。携帯は電源が入ること、大会の緊急番号などが登録されているかというところまでチェックがあります。また、ここ最近はレインウエアのチェックも厳しく、裏返してシームの確認を行うことはもちろん、シームされているものでも極端に生地が薄いものは指摘・議論されている様子を見かけました。

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装備チェックの緊張の一コマ
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必須装備品の中からランダムにチェックする方式

なにせ何千人もの人が出走するのです。ボランティアスタッフの数は約2000人(!)。とてもフレンドリーに接してくれます。

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黒い小さなビニール袋はトイレ用。数枚配られます

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パネルの前でカメラマンが写真を撮ってくれ、
メールで送ってもらえるサービスも

さて、無事に受付も完了したスタート前夜。今回のレースは私にとって初めての二晩越え。そうなるとやはり心配なのは眠気です。わたしの計画は、20時には寝れば、普段長時間寝慣れていないのでおそらく2時か3時くらいに目が覚める。1時間ほど寝つけなかったとしても二度寝して、ウトウトゴロゴロしながら正午まで寝る。結果的には、5時くらいに目が覚め、8時くらいにも1度目が覚めたけれど、15時間ほどたっぷり睡眠を取ることができました。

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出発前に食べた「餅入りカップうどん」

すべてを見たい。この目で、この足で

スタート5時間前。
食事は日本から持って来たうどんにお餅を入れた、ちからうどん。それから、大好きなフルーツ。ザックにはおにぎりを2つ忍ばせました。本当に雨なんて降るんだろうか。携帯には大会事務局からのSMS。

"The UTMB will start on 26/08 from Chamonix at 6pm on the normal route."

とりあえず、雷雨予報だけれど予定通りのスタート時刻に予定通りのルートで開催する、ということらしい。少しずつ増えはじめた雲も一時的なものだろうと前向きに考えて、スタートゲートへ向かいました。

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快晴の下、スタート会場へ

2500人近くが出走するUTMB。スタートからシャモニーの街に出る間、トップと最後尾の差は数十分。ゲートをくぐった時間によって関門や制限時間が変わるわけではありません。どうせ抜かれるのはもちろんわかっているけれど、最後尾から追い上げるのも体力を使うもの。まだ人もまばらなスタート1時間前の17時にはゲートに着き、真ん中あたりにて待機。みるみるうちに四方八方からランナーが集まって、最後には立ち上がらないとスペースがないほどに、あっという間に満員電車のようになりました。

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あっというまに選手で溢れかえる。いよいよその時が・・・

スタート数分前。
会場にはUTMBのテーマ曲としてすっかりお馴染みとなった「Conquest of Paradise」が流れ始めます。1992年に公開された、冒険家コロンブスがアメリカ大陸発見をするまでの生涯を描いた映画の挿入歌です。長く厳しくも希望に満ちた冒険に出る戦士たちを鼓舞するかのような荘厳で力強いメロディーで会場のボルテージを一気に最高潮に。

選手達はざわめき、笛を吹く人、雄叫びを上げる人、目を閉じて集中する人。背の低い私は身体の大きな欧米のランナー達に埋もれて身動きが取れないなかで、汗びっしょりになった手のひらを握りしめ、せわしなく動く心臓に拳を当てて、旅のはじまりを迎えました。

這ってでも、ゴールする。
這ってでも、ゴールする。

すべてを見たい。この目で、この足で。苦しみも楽しみも、ぜんぶぜんぶ味わうために来たんだから。歓声でスタートの号砲が聞こえないままに、ゾロゾロと選手達がスタートゲートへ歩き始めました。
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