トップページ > トップランナー > 第6回 鈴木博子さん

トップランナー | 『トレラン王国』が応援するリスペクトすべきヒーロー&ヒロインたち

第6回 鈴木博子さん

第6回 鈴木博子さん

好奇心が旺盛でとにかく元気で明るい。鈴木博子さんは、トレイルランニングを通して、新しい土地に行ったり、人と出会ったりすることが大好き。
山は走るべくして走っているわけではない。山を旅するためにトレイルを走り、山の壮大さ、自然の美しさを感じるために走る。
そして、それを共にする仲間との時間こそが、彼女にとって大切なのです。

すずき・ひろこ

1976年愛知県蒲郡市出身。超長距離(ウルトラ)を得意とし、海外レースに積極的に遠征、日本から毎年参戦する「強い日本人女性」としてアメリカでも知名度が高い。現在は神奈川県秦野市に在住し、休日は近隣の丹沢が彼女のフィールド。トレイルランレースは、2004年の『ハセツネCUP』準優勝を契機に本格的に始め、主に50km以上のロングレースを選んで出場し好成績を収めている。トップ選手でありながら成績にはあまりこだわらず、「ただ山が好きだから走る」という姿勢は変わらない。遥か彼方へ続くトレイル、その道を「旅」と捉える彼女は、走りながら常に新しい発見や体験を求めている。

[愛用マテリアル]

●シューズ/Vasque ブラーSL
●バックパック/グレゴリーサンジェム
● ウェア/モンベル
* いずれも2010年4月時点

家族旅行でのハイキングと学生時代のゆっくりジョギング

北アルプス・鹿島槍ヶ岳山頂。山がどこまでも続く。山はどれだけ多くの表情を持っているのだろうか
北アルプス・鹿島槍ヶ岳山頂。山がどこまでも続く。山はどれだけ多くの表情を持っているのだろうか

鈴木さんが山に行き始めたのは子供の頃。父親が山が好きで、ゴールデンウィーク、お盆休み、お正月休みなど毎年数回、3人姉妹と母親を連れて2~3泊の山登りに出かけた。
「他の家族は家族旅行でディスニーランドや遊園地に行っているのに、なんで自分たちはしんどい山を登らないといけないんだろうと思っていたんです」(笑)
子供時代、鈴木さんにとっての山登りは辛いものだった。

走る時は思考する時間――
2008年夏、カナダのMt.カスケード登山中。こんな日向ぼっこがたまらない
2008年夏、カナダのMt.カスケード登山中。こんな日向ぼっこがたまらない

大学生となった鈴木さんは、部活で体育会系の舞踊部に入り、創作ダンスを始めた。ダンスは体を使って表現するので太ってはいけないと言われ、週2回体重測定があった。そのため体をとにかく動かすことを目的に週5回、30分ゆっくりジョギングを始めた。
徐々に走る距離と時間を延ばし、気がつけば一日2時間になっていた。ちなみに日々のランニングは、今でも変わることなく10年以上続いている。

鈴木さんのランニングスタイルは生活の中で続けてきたジョギングと同じ。ゆっくり、ゆったりで無理がないペースで走ること。彼女にとって、走ることは「トレーニング」ではなく「考える時間」。走っている時の時間は、気持ちを整えたり頭の中を整理したりするために使う。走っていると色々なアイディアが思い浮かぶし、何かに行き詰まったとき心の整理ができる。
例えば自分の進路、これからやりたいこと、やるべきこと、人生の決断といった大きなことから、今日1日の計画、家を片付けないといけない、今日の食事に何を作ろうかなとか、などといった日常生活の些細なことまでいろいろ考えながら走る。フォームやペースタイムは考えない。自分のペースでゆっくり走りながら瞑想している。鈴木さんにとって、走る時は思考する時間なのである。

トレイルランの世界に飛び込む――
昨年、2009年のハセツネCUP。応援に笑顔で応える鈴木さん。レースは楽しまなくっちゃ
昨年、2009年のハセツネCUP。応援に笑顔で応える鈴木さん。レースは楽しまなくっちゃ

鈴木さんがトレイルランを始めたきっかけは、友人から教えてもらった『日本山岳耐久レース・長谷川恒男カップ』(通称ハセツネCUP)。好奇心が強くて色々なことに挑戦してみることが好きな鈴木さんは、それまで、72キロの長距離など走ったことがなかったが、2003年の大会に申込み、未知の世界に飛び込んだ。その年は15時間10分で無事完走し、「あー楽しかった。完走できてよかった」と思ったが、その時はまだトレイルランに夢中になるまでには至らなかった。

翌年ハセツネの事務局からハガキが届いた。前年の結果が女性12位ということで、2004年のレースへの招待状だった。「そっか。無料で走れるのか」ということで再度出場を決めた。ただ15時間10分よりはもう少し速く…と思い、事前にトレイルに走りに行ったり、大会1ヶ月前は神社の階段の上り下りを繰り返した。結果、11時間30分、まさかの女子2位でゴール!!
「前年は進めば進むほどきつくなったのですが、その大会ではゴールに近づくほどどんどん楽しくなって…。自分でも分からない不思議な感覚に陥りました。いまでも何であんなに楽しかったのか」
以来、山の中を走る魅力にすっかり取りつかれ、トレイルランに没頭した。
「山を走ると自然からエネルギーをもらって、体が軽くなるんです。どちらかというと、山を走っているという感覚ではなく、山に走らされている、という気持ちです」

「トレイルを走っているとき、涙が出るほど感動しちゃうこともあるんです」と言うほど感受性が強い鈴木さん。トレイルランを通じてより自然に近づいているのだ。
山は自分で走りに行くこともあるし、友人と出掛けたりもする。季節や天気にもよるが、平均週2〜3回、山で走るのがライフワーク。ただトレーニング計画を立てて山に行っているわけではなく、行きたいと思った時に自由気ままに走っている。特に遠くの見知らぬ山へ出かけたり、新しいトレイルを走るのが彼女の楽しみなのだ。

世界を駆ける女性エンデュランスランナー

ハセツネCUPや2006年開催された『OSJハコネ50K』など、トレイルランが拡大する過程と時を同じくして、国内を代表する女性トップ・トレイルランナーに成長した鈴木さん。昨年のハセツネCUPは10時間18分05で2度目の準優勝。これまでも出場したレースでは常に素晴らしい成績を収めてきた。
実のところ、日本ではロングレース以外のトレイルランレースにはあまり出ていない。今でこそ国内でも50kmを超える長距離レースが増えてきたが、それまではハセツネ以外にロングレースはあまり見当たらなかった。

「短い50km以下のレースだとゼーゼーハーハー言いながら速いペースで苦しく走らないといけないので、しんどくて楽しくない」
と本音をあっけらかんと白状。彼女は速く走ることより、ゆっくり長い距離を走ることが好きなエンデュランスランナーなのである。いつしか、彼女はそんな志向にぴったり合う北米のトレイルランレースに魅せられるようになった。

海外レースへ旅に出る――
2009年12月、NZ・ケプラーチャレンジ。森林限界を超えた山は何とも言えない心地よい空気を漂わせる
2009年12月、NZ・ケプラーチャレンジ。森林限界を超えた山は何とも言えない心地よい空気を漂わせる

海外にはさまざまなトレイルレースがあるが、「ウルトラ」と呼ぶマラソン以上の距離(おおむね50km以上)を走るトレイルラン大会も盛んである。北米では50km、50マイル、100km、100マイル(166km)などの距離が人気で、毎年100本以上のウルトラトレイルランニングレースが各地で開催されている。

知らない土地に行ってみたい、新しいトレイルや山に行ってみたいという思いを強く抱く鈴木さんは、2005年に単身アメリカに渡り、アリゾナで開催される『Zane Grey Highline 50 Mile Trail Race』という50マイルのレースに出場した。
「選手たちが皆、のびのびとレースを楽しんでいるのがといも印象的で、勝ち負けではないトレイルレースというのを感じました。そして、言葉では言い表せないほどの広大な自然の世界を感じ取りました。舗装された道路も建物も一切ない。そこには本当の自然しかなかったのです」
このレースがきっかけとなり、その後、毎年2〜3回、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、ヨーロッパと世界中のトレイルランレースを巡るようになった。

海外のレースは常に新たな感動を得るための旅と言う鈴木さん。これまでは『Vermont 100 Endurance Run』 以外、同じレースに2回以上出たことがないと言う。「海外の長距離レースでは、スタートからゴールまでが旅という感覚で走っています。だからタイムや成績をあまり気にしないで楽しく走れる」と鈴木さん。彼女が実践するトレイルランニングとはまさにグレイト・ジャーニーそのもの。
「この5年間で、海外レースには何回か出ていますが、来月はアメリカ・アイダホ州の『Pocatello 50』(50マイル)というトレイルレースに出ます。8月には昨年に続きヨーロッパで開催される『Ultra Trail Du Mont Blanc 』(166km)に出る予定です。昨年観忘れた景色をもう一度観に」

「おだやかに生きること」――
カナダ・アイスフィールドパークウェイにて。トレランの旅でこんな世界に立てるなんて。だからやめられない!
カナダ・アイスフィールドパークウェイにて。トレランの旅でこんな世界に立てるなんて。だからやめられない!

いつもニコニコ楽しそうに走っている鈴木さんだが、男性トップランナーも顔負けの持久力の持ち主。
「私はアスリートのように、結果を出すために、トレーニングのためだけに山を走ることができない。ただ山が好きだから、ただ楽しいから走っているのです。それが、たまたまレースでの結果につながっているだけです」
その素質はいったいどこから…。

鈴木さん曰く、レースで結果を出すためには、何よりも楽しく走れることが大事なのである。フィジカルなトレーニングより、彼女にとってメンタル的な部分がとても大きく、心配ごとがあったり悩みごとがあったりすると、全然思うように走れなくなってしまう。楽しいトレイルランをするには、自分を追い込まず、心を充実させて走ることが一番大事だと言う。

今年の目標は「おだやかに生きること」。
「自分のスタイルで、always smile、 いつも笑いながら山を走り続けたい」と明るく語ってくれた。

取材インタビュー/2010年4月1日
文=北村ポーリン(『アドベンチャーディバス』代表)


鈴木博子さんへの質問

好きな言葉・座右の銘を教えてください

心のままに。
Always Smile

トレイルラン以外でいま、熱中していることは

舞台観賞。素晴らしい芸術と出会うと心が高揚し、大きなエネルギーを得られる。舞台にある大きなパワーが大好きです

あなたにとっての師匠は?

大自然

ライバル・良き仲間はいますか?

ライバルはいないかな。仲間はトレイルで会う人みんな。
松本さん、柳下さん、チリチリとはよく山に行きます

自分はどんな人間だと思いますか?

繊細(笑)
もう少し鈍感力がほしいと思っています

レースにおいて常に心掛けていることは何ですか?

頑張らないこと。自分のペースで周りを感じること

ページのトップへ戻る