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第9回 間瀬ちがやさん

第9回 間瀬ちがやさん

日本女子トップトレイルランナーの間瀬さんは「トレーニング」や「勝ち負け」のために山を走っているわけではない。むしろ、追い込むことやトレーニングなんて「嫌い」。
彼女にとってのトレイルランとは、家族と一緒に過ごすこと、自然と触れ合って感動や発見すること、遊び心を持って探検してみること、そして自分への挑戦なのである。

ませ・ちがや

1968年神奈川県横須賀市出身。2児の母の専業主婦。学生時代はワンダーホーゲル部で登山と沢登りを中心に活動。結婚して出産をしてからも山に行き続き、家族と一緒に山で遊ぶことが最大の楽しみである。トレイルランニングは、山歩きの延長線という感覚で15年以上前に始め、今は数々の国内外の大会で優勝・入賞を果たしている日本の女子トップトレイルランナー。「心のゆとり」を持ったトレイルランニングを楽しんでもらうために、講習会やツーリングの講師やリーダーとしても活躍中。

[愛用マテリアル]

●シューズ/ザ・ノース・フェイス(シングルトラック)
●バックパック/ザ・ノース・フェイス(シュライク)
●ウェア/ザ・ノース・フェイス、C3FIT
●サプリ/HoneyPlus「ここでジョミ」、ショッツ・エナジージェル
* いずれも2010年7月時点

日本女子トップのトレイルランナーは『山の妖精』

国際レース『ツールド・モンブラン』(09年)のレース直前。やや緊張気味の間瀬さん(撮影=柏倉陽介)
国際レース『ツールド・モンブラン』(09年)のレース直前。やや緊張気味の間瀬さん(撮影=柏倉陽介)

「トレイルランナーの間瀬ちがやさんってどんな方ですか」と聞かれたら、私はこう答えようと思う。

間瀬さんは軽やかにヒョイヒョイと山を駆け抜ける『山の妖精』。時々足を止めて植物をじっくり見たり、木の実を取って美味しそうに食べたり、虫を掴んでみたり、沢に入ったり、笑顔を浮かばせながら本当に楽しそうに自然の中で遊んでいる。この妖精は、山に入ると一段と輝き、本当に心から山を愛しているのだなとすぐ分かる。しかし間瀬さんはただの山の妖精ではない。間瀬さんは女子のトップ選手でもあり、日本ではトレイルランの第一人者としても有名なのだ。

日本で最も過酷なトレイルレースと言われている日本山岳耐久レース、北丹沢12時間耐久レースや『トランスアルプスジャパン』(*1)など数々の過酷なレースで何度も優勝し、海外でもニュージーランドの『ケプラーチャレンジ』(*2)を2連覇、そして『ツールドモンブラン』(*3)でも日本人女性トップでゴール入賞も果たしている。山での活躍は夏のトレイルだけではない。ウィンターシーズンになると山スキーにどっぷりはまり、実は山スキーの日本とアジア大会で優勝をしてしまうほどの素晴らしい選手でもある。

(*1)トランスアルプスジャパン:日本アルプスを5日間走るロングディスタンスレース
(*2)ケプラーチャレンジ:ニュージーランド南島で行う60キロのトレランレース
(*3)ツールドモンブラン:イタリア、フランスとスイスの3カ国をまたぐ166キロの国際的なビッグレース。正式名は『ウルトラトレイル・デュ・モンブラン』

平日は「普通」の主婦――
『ケプラーチャレンジ』のパンフ表紙の顔は間瀬さん。ニュージーランドでも有名なトレイルランナーなのだ(撮影=松永紘明)
『ケプラーチャレンジ』のパンフ表紙の顔は間瀬さん。ニュージーランドでも有名なトレイルランナーなのだ(撮影=松永紘明)

さて、この「山の妖精」は普段どのように生活をしているのだろうか。レースの成績を見ると、ジムに毎日欠かさず通ってトレーニングしているとか、自分を追い込んで走っているのだろうと思われるかもしれない。だが、実はまったくそのようなことはしていない。間瀬さんは基本的に「普通の主婦」である。ご主人は高校の教師、中学生の息子と小学生の娘がおり、朝は5時に起きて食事の準備をして家族をたたき起こす。 

彼女の朝一番の仕事は、家族みんなを仕事や学校に間に合わせるために早く送り出すことである。そしてみんなが帰って来るまでの間は、掃除、洗濯、買い物、夕食の支度もしなければならない。ここまでは「普通の主婦」と同じである。

ただ普通の主婦と違うのは、空き時間の過ごし方。体を動かすことが大好きな間瀬さんは、とにかく普段からいろいろな運動をやっている。近所の公園をジョギングしたり、ノルディックポールを持って山を歩いたり、プールで泳いだり。天気が良ければ自転車で遠出したり、冬はスキーをしたり、ととても活発で元気な主婦である! もう少し詳しく聞いてみると、「うわ、そんなところに行ったの?」または「そんなに長く走っていたの?!」と驚いてしまう。

今日はロードを3~4時間ランニングした、トレイルランで富士山往復してきた、5時間かけてロードバイクで峠を4つ越えた、プールで2時間ずっと泳ぎ続けてきたなど、平日はこのように「普通」に過ごしているそう。しかし、「トレーニングって大嫌いなの」と言う間瀬さんにとって、これは決してトレーニングではない。「私はただ遊んでいるのよ♪」とのこと。(筆者コメント:その運動量は、立派なトレーニングになっているんだけどね・・・(^^;))

間瀬ファミリーと「山」――
富山湾から静岡焼津まで縦断したトランスジャパンアルプス(08年)のゴール直後。最高の達成感(撮影=柏倉陽介)
富山湾から静岡焼津まで縦断したトランスジャパンアルプス(08年)のゴール直後。最高の達成感(撮影=柏倉陽介)

間瀬さんと間瀬ファミリーにとって「山」の存在は大きい。

高校時代はワンダーホーゲル部に所属し、それ以来南北アルプス、八ヶ岳、東北など国内のいろいろな山に登ってきた。彼女の20年以上の山での経験の積み重ねは非常に大きく、刻々と変化する山での状況、天候、地形を見ながら、その場その場で適切な判断を下し無事に下山することを覚えた。もちろんその過程でいろいろな失敗も経験し、その中から山との付き合い方を学んできた。

結婚する前、間瀬さんと山好きのご主人のデートコースは必ず山であり、結婚して子供ができてからも、小さいうちから子供を背負ったり紐をつけたりして、家族で山を歩き続けてきた。(ちなみに、旦那さんの名前は「岳美」で、息子さんの名前は有名な山の本、「孤高な人」の主人公と同じ「文太郎」である。)

子供たちが少し大きくなると、週末は一緒にハイキングに出掛け、学校の休みには家族揃ってバックパックを背負って必ず山に向かっていた。4人で登山をしたり、キャンプをしたり、沢登りをしたり、山スキーをしたり、そして時には果敢に道なき道に分け入って歩いたり。このようにほとんど毎週のように山と自然に触れ合いながら、自然を大切にすることを子供たちに教え、同時に家族の絆を深めている。

間瀬さんと間瀬ファミリーにとって、「山」は休日の余暇の過ごす場所と言うよりは、もはや「ライフスタイル」と言った方が良いのかもしれない。

家族との絆。そして自分に素直な自然体な生き方

家族は間瀬さんの大きな心の支え。08年ハセツネCUPゴールでお母さんの顔になった間瀬さん(撮影=金子雄爾)
家族は間瀬さんの大きな心の支え。08年ハセツネCUPゴールでお母さんの顔になった間瀬さん(撮影=金子雄爾)

間瀬ファミリーが家族の絆を深める場所は山だけではない。間瀬さんの自宅にはテレビが置かれていない。そしてPCもない(もちろんEメールやインターネット環境もない)。今時テレビやPCがないなんて、珍しいどころか非常に不便だろうが、間瀬さんは、「子供たちがだんだん大きくなって、テレビや一人でコンピューターに向き合っていると会話がなくなってしまいがちなので、これらを取り除くことによって家族の時間を増やしコミュニケーションを大事にしたい」と言う。

間瀬さんがトレイルランレースなどに出るとき、いつも家族がそばにいる。普段からも一緒に山に行っていて、その延長線で彼女のレースにもほとんど必ず家族がサポートで付き添う。レース中苦しい時もあきらめたくなってしまう時も、常に家族が彼女を見守っていて、家族から力をもらっているに違いない。

自分を追い込むトレーニングは苦手――
間瀬さんといえばハセツネCUP。毎回初心に帰ってもくもくと走る間瀬さん。写真は5回目の優勝を果たした07年大会(撮影=金子雄爾)
間瀬さんといえばハセツネCUP。毎回初心に帰ってもくもくと走る間瀬さん。写真は5回目の優勝を果たした07年大会(撮影=金子雄爾)

間瀬さんのあの小さくて細い体でどうしてあんなに速く強く走れるのだろう? 彼女に普段のトレーニング方法を尋ねても、「何もしていない」「トレーニングは嫌い」「ただ遊んでいるだけ」と言う。実はそこに間瀬さんの強みと弱みがある。

本人はトレーニングという認識がなくても、日々のスポーツや生活の中で彼女の運動能力は維持・養成されているのだ。月間何キロ走るとか、ジムで筋トレをするといった、いわゆる「フィジカルトレーニング」はやっていない。世間ではトップアスリートと見られている間瀬さんだけに、意外かもしれない。

代わりに普段の生活の中にさまざまなスポーツを取り込むことで楽しく体を動かすことをトレーニングの代替としている希有な人。彼女にとってトレイルランニングは楽しいものであり、そのために苦しいトレーニングをするのは不自然と感じているに違いない。間瀬さんはあくまでも自分に正直なのだ。

具体的には、常に正しい姿勢を取ることにより体のコアを意識したり、ノルディックポールを使って効率的な歩き方を徹底的に体に覚えさせたり、水泳をすることでランでは普段使わない筋肉を鍛えたり、身近にあるタオルやゴルフボールを使って簡単なストレッチを試してみたり、本人が意識しなくても自然とトレイルランニングに効率的かつ効果的なトレーニングを継続的にやっているのだ。

さらに料理が好きで得意な間瀬さんは、ご主人や子供たちの健康に配慮して、毎日毎食栄養バランスの良い食事を作る。外食はほとんどせず、インスタント食品は使わずに、(トレーニング代わりにスーパーを何軒もハシゴして)安くて新鮮な食材を手に入れ、家族と自分の体に良い食事を作っている。

自然体で無意識に「トレーニング」をしている間瀬さんは、とことん自分を追い込むことが苦手である。大きなレースに出場する時でさえ、どこか週末の家族との山歩きの延長のような意識があって、競技に徹しきれない部分がある。

トレイルランニングブームに思うこと――
昨年秋以来の久しぶりのレースだった5月の道志村トレイルレース。ファンランのように山を楽しみながら走りました
昨年秋以来の久しぶりのレースだった5月の道志村トレイルレース。ファンランのように山を楽しみながら走りました

トレイルランニングが日本でこれほどのブームになるずっと前から、間瀬さんは山を走ったり歩いたりしながら家族と一緒に時間を過ごしてきた。そんな彼女にとって最近のトレイルランナーのレース指向には少々違和感があると言う。

「レースやトレーニングのため、ものすごく一生懸命に山を走っている人をよく見かける。それは凄いことだと思うし、人それぞれの楽しみ方もあると思うが、その表情や走り方にゆとりがないように見える」
「時には立ち止まって道端の草花に目を留めたり、鳥や虫の声に耳を傾けたり、もっと山を楽しんで欲しい」
「膝や腰に故障を抱えながら、それでも毎週のようにレースに出ている人もいるが、休養の取り方や食事など、自分の体ときちんと対話をしていないような気がする」

トレイルラン二ングはタイムを競うレースが全てではないということ。勝ち負けだけにとらわれないで山で過ごす時、自然と向き合い、一緒に行く家族や仲間との時間を楽しむことが大切だということ。

『山の妖精』は、今日も軽々とどこかのトレイルを走っているかも知れない。


文=北村ポーリン(『アドベンチャーディバス』代表)

間瀬ちがやさんへの質問

好きな言葉・座右の銘を教えてください

「愛すること」

トレイルラン以外でいま、熱中していることは

山スキー、水泳、読書

あなたにとっての師匠は?

カエル(ジャンプ力)、カモシカ(走力、崖を登るときの姿が好き!)

ライバル・良き仲間はいますか?

ポーリン

自分はどんな人間だと思いますか?

わがままたぬき(?!)
(モソモソした歩き方、オドオドしているところ、キョロキョロあちこち見まわすところ)

レースにおいて常に心掛けていることは何ですか?

その日を楽しむこと。
心のゆとりを持つこと。

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