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トップランナー | 『トレラン王国』が応援するリスペクトすべきヒーロー&ヒロインたち

第46回 福田由香理さん

第46回 福田由香理さん

ハワイで開催された『HURT100』から戻ったばかりなのに、「トレイルのためにマラソンも強くなりたい」と4月の『かすみがうらマラソン』に向けて走り込みを開始した由香理さん。その目線は高くつねにポジティブだ。目標を明言できる人が目標にいちばん近い人なのだが、それはこの後のお楽しみ、本文をご覧ください。いま最も伸び盛り、未来のトレラン界をリードする元気娘は彼女にキマリだ。

福田由香理(ふくだ・ゆかり)

1985年8月23日神奈川県横浜市出身。中学はテニス、高校でバレーボールに情熱を燃やす。高校時代、「トレーナー」という仕事を知り、中京大学体育学部に進学し体育学を学ぶ。在学中アルティメット部のトレーナーを務め男女全国優勝や海外遠征を経験。卒業後神奈川県厚木のスポーツジム『ボディクラフト』を経て現在フリーのプロトレーナーとして活動。2010年沖縄那覇マラソンでランの魅力を知り、翌年4月、東丹沢宮ケ瀬でトレイルレース初体験。2012年の初参戦『日本山岳耐久レース』(ハセツネCUP)でいきなり女子総合5位と注目を集め、一躍女子トップシーンへ。昨2014シーズンは、『八ヶ岳スリーピークス』女子2位、『志賀エクストリームトライアングル』優勝、『ハセツネCUP』女子総合2位、とホットなレースを展開中。

[愛用マテリアル]

●シューズ/ALTRA
●パック/パーゴワークス
●ウエア/teton.Bros、patagonia

高校時代に見つけた将来の道

2008年アルティメット世界選手権JAPANチーム。 中列左から5人目のハットの福田さん発見
2008年アルティメット世界選手権JAPANチーム。 中列左から5人目のハットの福田さん発見

まだ冷たい風が都会を吹き抜ける千駄ヶ谷外苑に、トレーニングにやってきたジャージ姿の福田由香理さんと会った。お仕事はスポーツトレーナー、そしていま熱中しているトレイルランニングでは女子トップランナーとして活躍中。時折見せるヒマワリのような輝く笑顔が爽やかなスポーツウーマンだ。

2014年10月、『第20回日本山岳耐久レース』で日本人トップの2位入賞、一躍ヒロインになった。実はトレラン王国は2年前の3月、静岡県伊豆半島で開催されたトレイルレース『IZUトレイルジャーニー』で福田さんにインタビューしている。このときは一般エリートランナーとしてレース後の感想をもらったのだが、あれから2年、彼女は経験を積み飛躍を遂げた。

アルティメット部トレーナー――
初めてのトレイルレース。2011年東丹沢 宮ケ瀬トレイルランレース 【写真提供:オールスポーツコミュニティ】
初めてのトレイルレース。2011年東丹沢 宮ケ瀬トレイルランレース 【写真提供:オールスポーツコミュニティ】

現在、福田さんは獨協大アメリカンフットボール部(3年目)、駒沢高校陸上部(2年目)のトレーナー(正確にはフィジカルコンディショニングトレーナー)の仕事を主に、東京駒沢公園をベースにするランニングクラブ『RunField』のコーチ、要望があれば個人のトレーニングメニューを組み立てる、スポーツ選手のボディの専門家だ。ここ数年は仕事の合間を縫ってトレーニングを続けながら、トレイルレースで好成績を連発。女子トップランナーの一翼を担っている。練習は週5日、本日金曜日は神宮の日。午前中、埼玉草加の獨協大学に行き、午後神奈川県伊勢原市へ帰宅途中、神宮外苑の周回コースで練習ランをする。毎日が多忙だ。

スポーツ選手のコンディションを管理するトレーナーと言う大事な役割。その仕事に就いた福田さんの足跡を振り返ってみよう。
小さいときからスポーツ少女の福田さん、小学校からバレーボール、テニスと活動し、将来は「バレーボール実業団に入りたい!」と夢見ていた。しかしいつしかその夢は「選手の近くにいたい」に変わっていった。

「高校で私には選手は無理と悟りました。高2の時にスピードスケート選手の清水宏保さんの『神の肉体』という本を読んだのですが、その中に選手のコンディショニングをサポートするトレーナーという役割を知りました。こんな仕事があるんだ…と」

高校卒業後、フィギアスケートのトップ選手を数多く排出する名古屋の中京大学体育学部体育学科に入学、親元を離れて単身、トレーナーになるため新たなスタートを切った。そしてアルティメットとの出会い。

「学生は皆なにかしらの部活に所属しますが、私はアルティメット部のトレーナーになりました。アルティメットはアメリカで生れたスポーツで、フライングディスク(フリスビーのようなプラスチック製の円盤)を投げてパスを繋ぎながらエンドゾーンを目指すアメリカンフットボールの様な競技です。私はトレーナーとして選手たちのトレーニングの管理や怪我を防ぐためのケアなどをしていました。日本ではマイナーなスポーツですが選手たちはこのスポーツを盛り上げたいと真剣に取り組んでいました」

卒業を控えた4年生時、中京大学は日本学生選手権で男女優勝制覇を果たした。その年、福田さんは4年に一度の世界選手権へ日本代表のトレーナーとして遠征(バンクーバー)にも帯同した。

在学中、全米公認『ストレングス&コンディショニングスペシャリスト』の資格を取得。日本ではまだ国家資格として確立されていないが、スポーツ先進国の欧米ではスポーツ選手の身体を触るためにはトレーナーとしての資格が必要なのだ。
大学を卒業し4年ぶりに関東に戻り、厚木の治療院兼スポーツジム『ボディクラフト』にスポーツトレーナーとして就職した。1年が過ぎようとしていたある日、隣町で開催される新春の駅伝大会に出場することに。

「『ボディクラフト』のトレーナーに村戸さんという方がいて、フルを2時間19分で走る市民ランナーでした。その村戸さんによって主宰されたスポーツジムの中のランングクラブが『走れジョニー』。私はまったく走らない人だったのですが、3km5区間、メンバーが一人足りないので駆り出されることに…。その時は3kmを走るのもとても辛くてやっと襷を渡しました」

その後、ランニングブームがクラブ内に蔓延し、スタッフとお客さんでフルを走ったことのないメンバーで「きゅうちゃんとフルマラソンを完走しよう」プロジェクトが立ち上がり、年末の『那覇マラソン』に向けて練習が始まった。

「4時間を切りたいというのが皆の目標でした。そこで考えられたのが200分走。海老名運動公園でメンバーと2回トライしました。4時間=240分ですが、『200分走れれば残り40分は気合で走れるだろう』というものでした。ペースは分かりません、どれだけ走ったかもわかりませんでした(笑)」
2010年12月、初めてのフル、那覇マラソンは4時間21分。42.195kmをキロ6分できっちり刻んで走り切った。以後、毎年那覇マラソンが恒例のイベントとなった。

福田式トレーニング走術――
2012年8月アメリカコロラド州ボルダーにて。『スピードゴート』 の後に出かけた思い出の旅
2012年8月アメリカコロラド州ボルダーにて。『スピードゴート』 の後に出かけた思い出の旅

このマラソンの練習法はトレイルレースを始めてからの福田さんのベースになっている。事前にお断りしておくが、これは誰にでも通用するものではない。あくまで福田式オリジナルメソッドだ。しかし理にかなっている。

「あの200分走はその後の自分の練習のヒントになっています。例えば100マイルを30時間で完走したいなら、その3分の2、20時間を走れれば残りの3分の1は本番で頑張れるという自分なりの考えのベースになっています。ロードとトレイルの10kmはまったく内容が異なるので、私の場合は時間走を指標にしていることが多い。時間と距離を併用して練習プランを練ります」

ランニングに限らず、スポーツ全てに当てはまることだが画一的な練習方法は合理的とは言えない。疲れが溜まっていたり、怪我が回復して間もなかったり、その日の気温や気象条件など、人も環境もコンディションも常に同じではないので、同じメニューを繰り返す練習は合理的とは言えないし安全ではない。そのあたりトレーナーとしての長いキャリアを持つ彼女はよく解っている。

「今日は30kmをキロ5分で走ろうという目標を立てたとします。でも自分のコンディションはいつも同じとは限らないので、悪い日は無理をすれば故障します。そうゆう日はペースが多少落ちてもその日のベストの走りができればいいと考えています。自分の中で追い込むことさえできていればいいトレーニングになる。そうゆう走り方を繰り返しているうちにどんなコンディションでもレースを組み立てることができるようになるのです。このような考え方ができるようになったのも私にランニングを教えてくれた村戸さんのおかげです」


なるほど、流石だ。

ベストなレースの記憶は順位よりも価値がある

昨年のハセツネCUPでは日本人最高位となる2位でフィニッシュ 【写真提供:オールスポーツコミュニティ】
昨年のハセツネCUPでは日本人最高位となる2位でフィニッシュ 【写真提供:オールスポーツコミュニティ】

「私、滝が好きなんです!! 滝がある自然が好きなんです」

トレランとの出会いを尋ねると、唐突に返された。おそらく「滝を見に行く途中の山道を走ってしまった」ということだろう。福田さんが暮らす神奈川県の中部丘陵の町から丹沢がほど近い。丹沢山系はその名の通り無数の沢が山ひだを繋ぎ、清流は大小の滝を形成する。雪解けから新緑にかけて谷はマイナスイオンに包まれる。

福田さんとトレランの出会い。またしても彼女の前に先導者が現われた。

「厚木周辺には少し行くとトレイルがあってよく一人で走りに行ってました。2011年に東丹沢の宮ヶ瀬トレイルに初めて出ました。ロードが半分を占めるレースでしたが何もかもが新鮮で楽しかった。そのレースで7位になったのですが、6位までが表彰でちょっとメラメラしましたね。ある日、『ボディクラフト』の会員の方のお知り合いに石井さんと言う方がいて、『お話したいことがある』と言われて厚木のタリーズで会いました。初対面のその方からPCを使ってパワーポイントで独自に作成されたハセツネの資料をプレゼンされました(笑)。『あなたも出てみない?』『はい…』」

スタイル確立――
2014志賀エクストリームトライアングルで念願の初優勝 【写真提供:オールスポーツコミュニティ】
2014志賀エクストリームトライアングルで念願の初優勝 【写真提供:オールスポーツコミュニティ】

2012年10月、ハセツネ初挑戦、この大会でいきなり女子総合5位(10時間36分)に入賞。

「夜間走は初めてでしたが、7月に『おんたけウルトラ』を完走し、その2週間後にアメリカのユタ州で、全米一厳しい50kmと言われている『スピードゴート』を完走できたことが大きな自信に繋がりました」

その後も2013年『IZUトレイルジャーニー』『UTMF』『信越五岳』、昨年は『UTMF』『八ヶ岳スリーピークス』『志賀エクストリームトライアングル』とビッグレースに出場し経験を積み、入賞を重ねてきたのだが、ひとつだけ悔しいレースがあるという。それは2013年秋の『信越五岳トレイルランニングレース』。

「レース中に股関節の痛みが出て後続にどんどん抜かれて途中でリタイアしました。トレーニングもうまくいっていたのに自分の気持ちの弱さでリタイアしました。でもあのレースは完走することができたと悔やんでいます。トレイルレースは一度落ちても回復するんです。ですからレースを途中で投げ出すことなく必ず完走しよう、とあのレースの後、誓いました。たとえ成績が悪くとも出場するレースは完走するというのが自分のスタイルです」

たしかにトップ選手の目標は高く周囲の期待は大きい。しかしトレイルレースの勝ち負けはタイムや順位だけではない。巨大な山と対峙する人力の挑戦――。リタイアは山登りに行って山頂を眼前に仰ぎながら山頂に立たないで下山するのと同じくらい悔しい。

価値あるレース――
2014UTMF参戦中。結果は女子13位。今年は入賞圏内が目標
2014UTMF参戦中。結果は女子13位。今年は入賞圏内が目標

全国のトレイルランナーが注目する秋のビッグレース『日本山岳耐久レース』(ハセツネCUP)。福田さんが昨年のハセツネで日本人トップの総合2位になったことは周知だが、このレースで彼女は第2関門・月夜見から長尾平で一時10分差に開いたタイムを3分差まで引き戻すねばりを見せた。結果優勝したエイミー・スプロストンを捉えることはできなかったが、最後まで女王に背中を追った。このレースで彼女はまたひとつ経験を積んだと思う。

「3回目の出場となった昨年のハセツネの目標は10時間切りでした。そのための練習を積んできました。過去の2回を振り返り、『後半をしっかり走り切れたら満足できるレースができる』と思い、後半の力を残していました。2位という順位はもちろん嬉しいのですが自分のイメージしたベストなレースができたことが何より嬉しい」

そのとき選手はタイム差を知らない。観客やメディアはレース展開をドラマチックなバトルや駆け引きと捉えがちだが、選手は闇夜のトレイルでベストを尽くして一人戦っている。結果はフィニッシュゲートの向こうにあり、選手にとってはゴールまでのプロセスが何より大切なのだ。ベストなレースの記憶は時に順位よりも価値があると思う。

「タイムは自分のものですが、順位は相手があって決まるので1位のチャンスというのはそうあるものではありません。結果は4分差、『あそこでもう少し頑張れたかな』と思いましたが、まだこれからもチャンスはあると思うのでさらに良い結果が残せるように努力したいと思います」

『1秒を削り出せ』。箱根大学駅伝の名監督が選手に伝えた名言がある。10名で1秒を縮めれば10秒になる。トレイルレースは一人で走るものだからタイムは自分の努力にかかっているが、マラソンとは異なる多彩なコース変化や天候の移り変わりなど、その時々、局面の中にタイムを左右する要因がたくさん含まれている。だからトレイルレースは面白い。

最後に今年の大きなテーマを伺った。

「今年の目標は100マイルでも強くなりたいということ。UTMFで表彰台に上ることが目標です」

笑顔でフィニッシュゲートをくぐる由香理さんの姿を期待したい。


インタビュー=2015年2月20日

福田由香理さんへの質問

好きな言葉・座右の銘を教えてください

「自分以外師匠」「すべての人に感謝」
DefTechの歌詞にあってすごく共感した言葉です。自分以外のすべての人から学ぶべきものはあると思っています。

トレラン以外でいま熱中していることは 

三線(さんしん)
沖縄大好きで、知人からお借りしている三線を練習するのが日々の楽しみです。

あなたにとっての師匠は?

私の走るキッカケとなった村戸さん、トレイルランニングの世界にガッツリ引き込んでくれた西城さん。

ライバル・良き仲間はいますか?

RunFieldのメンバー、厚木の走れジョニーのメンバー、丹沢で練習している仲間にはいつも良い刺激をもらっています。

自分はどんな人間だと思いますか?

感覚型。「これ」と思ったらあまり先を考えずに行動してしまう。これは良い時もあれば悪い時も・・・
友達からは「自由人だね~」と言われますが、トレランの世界にいるとそんな人ばっかりで、自分はまだまだだと最近思っています。

レースにおいて常に心がけていることは何ですか?

スタートしたからには必ず完走する。
Always Smile☆応援してる人、見てくれている人も元気になるように。

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