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UTMB 至高の道

フランス語でモン (Mont) は「山」、ブラン (Blanc) は「白」を意味する。白く輝く山、モンブラン(Mont Blanc)は、フランスとイタリアの国境に位置する、ヨーロッパアルプスの最高峰である。

その麓の街、シャモニーは、夏にはハイカー、冬にはスキーを楽しむ人々が、世界中から集まるアウトドアリゾートだ。あらゆるアウトドアスポーツが楽しめるほか、モンブランをはじめとした周辺の山へロープウェイで簡単に登ることができる。

街のあちらこちらにアウトドアショップが立ち並び、買い物袋を片手に昼間からテラスでビールを飲み、パスタやピザを頬張る観光客でにぎわっている。

そんなシャモニーを起点に、フランス、スイス、イタリアの3ヵ国にわたって開催されるトレイルランニングレースが、『Ultra-Trail du Mont-Blanc』“UTMB”だ。2005年に石川弘樹氏が日本人で初めて完走し、その後2009年、NHKによるテレビ放映で一気に知名度が高まり、これまで鏑木毅氏をはじめとする数多くのトップランナーが参戦している。今では日本人の参加者は200人近く、日本のトレイルランナーにとって最も有名な海外レースとなっている。

絶景の中で過ごす至極のひと時

UTMBは世界中から多くのトップランナーが集まる国際レースであり、その規模は日本国内レースしか見たことのないランナーにとっては想像を絶するものがある。街中にUTMBのフラッグが掲げられ、UTMBウィークのシャモニーはレース一色になる。街ではさまざまな言語が飛び交っていた。

2003年にスタートし、今年で12年目となるUTMBは、今大会らメインスポンサーがアウトドアギアの世界的ブランド『Columbia』(コロンビア)に変更となるビッグニュースもあり、新たな時代の幕開けとも言える年となった。

他にも世界には歴史あるレースやトップランナーが集まるレースは数多くあるが、「100マイルレース」の代表格としてUTMBはやはりどこか特別なものがある。レース受付の時点ですでに感じた“選手層”の厚さには驚いた。さまざまな国の人々、子供のように若い人からおそらく家族でエントリーしたのだろうというママやパパ、白髪が妙に格好いいおじいさんまで、実に幅広い。

あるいは心配になるほど細い人から、「この人は普段運動しているのかな・・・?」という身体の大きな人もいる。険しい山岳地帯での過酷なレースである一方で、参加者はとにかく自由でアスリート感は少なく、テーマパークの行列にでも並んでいるような気分だった。決してアスリートだけが参加を許された大会ではない。期間中は街中で子供たちのミニレースも開催され、UTMBウィークはフェスタとなる。

エントリー時にあるお約束の装備チェックは、その場でプリンターからプリントアウトされる必須項目の中からランダムにいくつかのチェック項目が書かれた用紙(選手によって異なる)を渡されて、それをその場で確認するという日本にはないスタイルだった。スタッフはおそらくボランティアだけれど、皆とてもフレンドリーで、言葉がわからなくとも色々と話し掛けてくれるので不安に感じていた「言葉の壁」は初日でたいていどうでもよくなった。

シャモニーでの滞在は、ホテルからアパートのようなものまでさまざまだけれど、食事はほとんど街のスーパーで買って食べるスタイルで過ごす人が多い。物価は日本とさほど変わらない。街の端から端まで歩いて行けるコンパクトなシャモニーの街は、あらゆる場所からモンブランを望むことができ、絶景の中で過ごす至極のひと時を体験できる。レースにばかり気を取られてその景観を見逃してしまったとしたら、それほど残念なことはない。

今大会よりColumbiaが大会のメインスポンサーとなった(SF)
今大会よりColumbiaが大会のメインスポンサーとなった(SF)
シャモニーの町からロープウェイで上がることができるエギュー・ド・ミディ(SF)
シャモニーの町からロープウェイで上がることができるエギュー・ド・ミディ(SF)

UTMBの5つのカテゴリーのレースで構成されているが、メインレースのUTMBのスタートが近づくにつれて、街はより一層活気づいてくる。人の量が一気に増えて、スタートの朝にはものすごい数の人々の沿道がスタートゲートから数キロに渡って続き、賑やかな応援が選手を盛り上げ、長旅の始まりを見送る。

レースは、トップランナーを除き比較的ゆったりとスタートする。選手たちのレース装備は、日本では見かけないブランドも多い。ヨーロッパのレースなだけあって、ヨーロッパ系ブランドが多いが、asicsやmizunoといった日本のブランドを着ている選手も多かった。また、日本ではポピュラーなサンバイザーはかなり少なく、Buffなどのヘッドバンド率が非常に高い。また多くの選手がランニングパンツに生足で、テーピングを施している人もほとんど見かけなかった。女性はなぜかスカート率が高く、皆お洒落なコーディネートで、可愛くスタイリングしているのが印象的だ。

午後4時、モンブランを巡る100マイルの旅、今宵のビッグフェスタの始まり(SF)
午後4時、モンブランを巡る100マイルの旅、今宵のビッグフェスタの始まり(SF)
UTMBウィークで最もエキサイトする恒例レース(SF)
UTMBウィークで最もエキサイトする恒例レース(SF)
montrailチームからは日本のエース3名が参戦(SF)
montrailチームからは日本のエース3名が参戦(SF)
Salomonの小川、大瀬も元気にスタートを待つ(SF)
Salomonの小川、大瀬も元気にスタートを待つ(SF)
クールマイヨールからスタートしたcccの選手。ずーっと登りなのに強いな(YK)
クールマイヨールからスタートしたcccの選手。ずーっと登りなのに強いな(YK)
cccに参戦した上田瑠偉選手。本場アルプスのトレイルに全力で挑む(YK)
cccに参戦した上田瑠偉選手。本場アルプスのトレイルに全力で挑む(YK)
夜を迎え輝くシャモニーの街(YK)
夜を迎え輝くシャモニーの街(YK)
満月の光がトレイルランナーに勇気を与える(YK)
満月の光がトレイルランナーに勇気を与える(YK)
氷河と岩肌の迫力に圧倒されるUTMB(SF)
氷河と岩肌の迫力に圧倒されるUTMB(SF)
そのスケールの中では人間は行進を続けるアリのよう(SF)
そのスケールの中では人間は行進を続けるアリのよう(SF)
選手をガードするパトロール隊。ありがとう!!(SF)
選手をガードするパトロール隊。ありがとう!!(SF)
今年のUTMBは本当に暑かった。日中はクールダウン必至(SF)
今年のUTMBは本当に暑かった。日中はクールダウン必至(SF)
上田選手、笑顔でシャモニーに凱旋(SF)
上田選手、笑顔でシャモニーに凱旋(SF)
表彰式がまもなく始まる。上方の山がモンブラン(YK)
表彰式がまもなく始まる。上方の山がモンブラン(YK)
新たな顔ぶれが多数並んだUTMB、世界の注目度の高さがわかる(YK)
新たな顔ぶれが多数並んだUTMB、世界の注目度の高さがわかる(YK)
20代トップの成績で入賞の証カウベルを獲得(YK)
20代トップの成績で入賞の証カウベルを獲得(YK)
ここシャモニーでもおなじみになった? ドMポーズ(SF)
ここシャモニーでもおなじみになった? ドMポーズ(SF)
「お見事」なんて洒落ているけど、ちょっとプリントミスのような…(SF)
「お見事」なんて洒落ているけど、ちょっとプリントミスのような…(SF)
たくましいママ、子供たちの羨望の的だね(SF)
たくましいママ、子供たちの羨望の的だね(SF)
子供のころからアルプスで育ったお祖父ちゃんに違いない、きっと(SF)
子供のころからアルプスで育ったお祖父ちゃんに違いない、きっと(SF)
日本人トップ、総合12位と大健闘した土井選手(SF)
日本人トップ、総合12位と大健闘した土井選手(SF)

100マイルレースのマエストロたちの競演

今年は、日本人のトップランナー含め、暑さで苦しめられることとなった。とにかく暑い。街を歩いているだけでも日焼けしそうなほど、毎日ジリジリと太陽が照りつけていた。ヨーロッパは記録的猛暑だったようで、過去のUTMBの“荒れた天気”をもとに寒さ対策を重視した選手も多かったはずだろう。それを裏切るように夜でも走り出せば汗ばむほどの天候だった。

日本でも今夏は気温が高い日が続いたものの、日本人が暑さに強いかと言えば、日本の暑さとは全く異なるものだった。日本のようにジメジメした湿度は全くなく、空気はカラリと乾いていて、暑くてたまらなくてもウエアが汗でびっしょりと濡れることがない。おそらく汗はかいているのだけれど、汗をかいたものがすぐに蒸発して乾いてしまうのかもしれない。景色は壮大だが樹林帯は少なく、コースでは太陽を遮る影もなく、どんどんと脱水になり体調を崩した選手も多い。

レース中、欧米の選手と行動を共にしていると面白いことに気付く。登り方や歩き方が日本人とは大きく異なるのだ。きっと日本人選手の誰もが同じ様に感じているはずだ。

まず、とにかく登りが強い。長い手足でガシガシと登っていく。歩いているのだけれど、まるで追いつかない。彼らの一歩が自分の二〜三歩に相当するのではないかと思うほど、ストライドに差を感じた。体格の差もあるが、とにかく登りが速いのだ。

そうかと思えば、ボリュームゾーンの多くの選手は、なぜかテクニカルな下りでは途端にスピードが落ちる。登りがゆっくり、下りでかっ飛ばすのがトレイルランニングの特徴だとイメージしていたのでこの違いはとても意外だった。特に木の根が這う樹林帯のシングルトラックなどは、てくてくとゆっくり歩いている。下りが苦手なのか、安全に下りたいのか、登りが速くて下りが遅いヨーロッパスタイルは不思議でならない。

そしてもうひとつ。簡単に「追い越し」ができないということ。日本では後ろに他の選手の気配を感じると、左右によけて道を譲ることが多い。しかし、これは日本人の律儀な部分なのか、ずうーっと後ろに選手が連なって渋滞ができていても、しばらくぴったりと後ろにいても、なかなか道を譲ってはくれない。ただし、決して「譲りたくない」わけではなく、声を掛けると笑顔で譲ってくれる。フランス語でもイタリア語でも英語でもいい。何かしら先に行かせてほしいことを伝えれば問題ない。文化・習慣の違いなのかもしれない。

暑さで波乱のレースとなったUTMB。しかし皆が苦しむなかで、60歳以上、いや70歳近いであろうシニアランナーが淡々と走りゴールゲートに入ってくる。速くはなくとも安定した走りと着実なレース展開で、次々にフィニッシャーベストを手にしていた。ゴールでは、家族に迎えられてハグをする。まだ、100マイルレース少ない日本との歴史の違いなのかもしれない。100マイルレースのベテランがたくさんいるのだと感じた。

ゴールは、スタート以上に沿道に人が溢れ、シャモニーの街に入ったその時から大歓声のなかゲートに向かう。ヒーローになったかのようなその歓迎は、何十時間も闘い続けてきた長旅のフィナーレとしてとても感動的だ。応援で来ている人々だけでなく、街全体がトレイルランニング、UTMBの過酷さを理解しており、完走を褒め称えてくれるのだ。

こちらではトレイルランニングは希有なスポーツではなく、ごく自然に受け入れられているように感じた。それは街でも見られ、アウトドアショップではトレイルランニングのコーナーが大きく展開されていたり、コース上でも大会とは関係なく山中を走るランナーに出逢ったりもする。こんなところにどうやって来たのかと思うような場所でも応援に来ているランナーやハイカーがいるのだ。

街のすぐそばに多くの登山口があり、トレッキングコースが無数にある。標高2,000m近くまで一気に上がるロープウェイが整備されており、老若男女が気軽にハイキングに出かけ、まるで観光の延長、日本のような「アルピニズム」や「山岳信仰」といった敷居の高さを感じなかった。山が日本よりももっと身近なものなのかもしれない。

「海外レース」というとそれ相応の準備が必要だ。UTMBの場合は、会場のシャモニーまで乗り継ぎ便などを利用して10時間を超えるフライトの後にバスの移動が待っている。アクセスを含めると少なくとも1週間ほどの休暇が必要で、費用も決して安いとは言えない。ただ、「過酷さ」や「レベルの高さ」、「言葉の壁」「文化の違い」などについては、日本よりももっと自由で、誰にでもオープンで、その敷居は想像以上に低いと感じた。気後れすることは何もない。

年々参加のためのポイント数が多くなり、人気故の抽選倍率も高い。参加するためのハードルは決して容易なことではないが、条件をクリアできるのであれば、ぜひ一度、その「世界」を体感してみてほしい。その価値は十分にある。

UTMB2016 挑戦は間もなく始まる

■UTMBオフィシャルサイト

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